「ご飯できてるよ」
アーモンド効果を飲みながら無限論の教室(講談社現代新書)を読んでいた所そのようなレディコールがかかる。料理を机の上に運ぶのは俺の仕事である部分が割とあるので、あながち間違いでもない。食卓へ向かう際のどうでもいい道中にはどうでもいい階段などがあり、それを下る。移動とかいう概念はクソどうでもいい。よく小説家は移動やその際の景観を精密に描写するが、正直俺はまるで興味がない。写実的な描写だけに留めるならばまるでやる気が起きない。なんか比喩的で示唆的な描写ができる時のみ景観を描写したいし、というか写実的な文章が退屈というのは皆さんも割と共感してくれるのではだろうか?そうでもないのだろうか?まぁ少なくとも俺はそうで、服装とかそういうのもあまり精密に書きたくはない。どうでもいい。どうしてもある程度情報が欲しいという人がいるかもしれないから言っておくが、基本的に俺はズボンを履かずパンツと適当な上一枚で生活しているから、今後はこの記事内ではなく今後の全てのブログにおいて俺が登場した時はその服装をしていると思ってもらっていい、家の外でもか、という揚げ足取りがあるかもだが、別にそう思われても構わないな、とも思う。寒くないの?と言われるかもだが、俺は気温を感じる能力が低いっぽい。もちろん、感じているクオリアと感情の発露は〜という話を無限にできそうだが、まぁひとまず置いておいて、「暑くない?」や「寒くない?」などと言って周りの人々が部屋の窓を開けたりエアコンを付ける際、俺は全く共感できない事が多いという話があるのだ。脱線したが話を戻す。俺は本を読みながら階段を下る。意識が本には無限に下っていけるかのように思えるが、対照的に階段を下れる回数はどうやら有限であったそうで、足の小指を打った。うむ、実にエレガント。
ヒリヒリと痛む小指とは対照的に、カレーにはいくらタバスコをかけても口内は痛まない。というか痛まなくなってしまった。やはり過剰に満たされる、刺激されると全部虚しくなるんだよな。少なくとも経験則的にいつもそうであったように思える。物欲だろうと何だろうと。祖父母がゲームを無限に買ってくれる時期があったのだが、俺は暫くゲームを買わなくなった。メダルゲームも限られた金でやってた時期が良かった。祖母がメダルゲームにハマり、投入できる資金が感覚の上で無限になった時ぐらいから一気に興味を失ったのを覚えている。俺の家には業務用のタバスコがあり、市販のタバスコのマジで10倍ぐらいはあるように見える。俺はタバスコを追加する。何事も欲求不満の内が華なのだ。……いや、ただのアブダクションだ。聞き流してくれていい。逆のベクトルとして黒歴史に比べたら大体のことは耐えられることでしかないなと思える。欲求不満すぎて他の欲求不満が霞むといったような。そうそう逆療法!逆療法ってめちゃくちゃいい言葉じゃないですか?克服、って良い概念ですよね!克服、逆療法という単語の良さを母親に力説しようかと思ったが前にもしていて、かつ反応が芳しくなかった事を思い出してやめた。
タバスコを追加し、タバスコを追加する。
全てが良くなっていく。全てが裏返し。
昔に比べて、この上ない苦痛も耐えがたい幸福も無くなってしまったな。俺はかなり前からずっとこんな事を言っている気がする。その昔って、いつ?
妹が少し遅れて向かい側の席に座ると、ほぼそれと同時にキッチンからアラームのような、着信音のような、なんらかのオノマトペで形容されやすそうな音が聴こえてきた。妹が「なんでポキポキ言ってるの?」と発する。これをポキポキと翻訳するとは流石俺の妹だな、将来はフィネガンズ・ウェイクの翻訳に携わっていただきたい、なんて適当に思っていなかった俺はこう返答する。
「ポキポキタイムなんだろ」
うん、誤解を解かせて。
ポキポキタイムとはまだ妹が確か小一?ぐらいの頃に編み出した造語であり、使用される場面の基準が謎である事を指摘したら妹がツボったという過去があるワードなのだ。例えば折り紙を折る際にもスクイーズを絞る際にも「ポキポキタイム」などと発するので、なんでもありなんじゃと何かをする際に逐一「お?ポキポキタイムか?」などとからかい続けたらウケたという過去があるのだ。飽きられない程度でやめたが、しつこい系のネタというのは繰り返すほど面白くなるもので、今でも然るべき時が来たらポキポキタイム質疑を行なっている。
そして俺がこのワードを見逃す訳がなかった。寧ろフリかとさえ思ったし、これはウケるな、と思った。実際母親は「まだ言ってるしw」みたいな風に笑っていた、が、妹は何故かキレていた。
キレていたのである。
白けていたとかでもなく、キレていた。
キレているのである。
「バカにしんとってくれん?」
妹は言う。
ハッキリ言ってこいつは気性が荒い。内弁慶とはこの事みたいな性格をしておるらしく、外では大人しいものの家の中ではわがままガールなのである。もっとも、俺は家の外のこいつを伝聞でしか知らないので、いまいち大人しく気の弱いこいつを想像しにくいのだが。ちなみに俺は家の中でも外でもマシンガントーク系人間だったらしい。さて、しかし今回は何が悪かったのだろう。と思っていたところ、
ちょうど母が「ああ、ごめん。ちょっと今日は機嫌悪いんだわ、そっとしといたって」
なるほどなるほど。まぁそれにこいつはお姉さん志向が強いっぽいから、小さい頃作った言葉を掘り返されるのは不満なのかもしれない。俺もおままごとでは”兄”役によく甘んじていた人間だからその気持ちがよーく分かる。(全然わからない。)
しかし気持ちが分かった/分からない上で、俺は
「お?それはもしかしてポキポキタイム”怒り”ヴァージョンですか?」とか「(本名)、怒りのポキポキタイム!w」とか「ポキポキタイム2〜憤怒〜」などの煽りワードを1人で思いつき1人で煽りたい欲求と笑いを堪えていた。しかし俺は実際に煽ったりはしない。確かに煽る時もあるが、実を言うと俺はシスコン気質があり、なんだかんだ妹が可愛いのだ(本当の話です)いやごめん。やっぱ親が目の前にいなかったら煽ってたと思う(これも本当の話です)
俺がまだ飽き足らず「ガチギレポキポキタイム3〜
とか考えて笑いを堪えていると急に
「そう言うことしないの!!!!!!!!」
と母親の怒号が響き渡った。思考盗聴、あるいはおもわず口に出していたか?とか思ったが矛先は妹だった。というか口に出していたとしても俺なら多分ここまで怒られてないし、妹に対してもいつもならこんな怒ってないであろう、という怒り方だった。
ビックリした。その後の会話で気づいたのだが、どうやら妹はスプーンをカレーの皿にブチ当てたらしい。気づかなかった。マジで五感が鈍いんだな。俺。
親は続け様にこう言う。「お前は兄を舐めすぎだ!!」と。割と温厚な母親なのだが、俺に対する態度が前から悪く、注意してきたが一向に良くならないから強く怒っているとのことだ。ふむ。別に好きにベロンベロン舐めさせておけば良いと俺は思っているがね。寧ろ願ったり叶ったりかもしれない。妹は可愛い。(実際男子に人気らしいよ。)俺は寛容でいたい。前なら親に向けて哲学的な倫理の話を始めていたのだろうが、まぁ、何度も何度も何度も繰り返して俺は親とそういう話をする事を諦めた。俺は黙って怒鳴られる妹を見ずに見ていた。
正しいこと以外口にしたくねえな、と思いながらカレーを口にする。
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